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証(曽我部実穂)

我が家は母子家庭です。

父は牧師でした。正直、父の記憶はあまりなく、どのように語るべきかわかりません。

ただひとつ言えるのは、父は教会のお金を使ってしまった弱い人だったということです。

日本の田舎町で、2歳から9歳まで教会の子として育ち、周りの子と何か違う自分の環境に不自由さを感じていました。

父の事件発覚後、父は牧師を辞め、家族でその町と教会を離れました。

私は、日曜日に朝寝坊ができ、周りの子と同じ、念願の普通の子の生活を手に入れたようで、嬉しかったです。

でも、そんな嬉しい生活も1ヶ月を過ぎる頃には、違和感に変わりました。

家族の悲鳴が聞こえるようでした。

母は、壊れかけていた家族を立て直し、守って行こうともがいていました。

それとは正反対に、父は家族からも神様からも、自分自身からも逃げ、結局両親は離婚します。

しかし、神様はそんな私たちの元に助け手を与えてくださり、母と私たち兄妹を迎えてくれる教会を与えてくださいました。

その時の私にとって、神様や教会は、母を支えてくれる大切なものであり、父の存在を思い出させる痛みを伴うものでもありました。

母の背中から感じていた信仰が、自分の心に根付いていったのは、自然なことだと当時は思っていましたが、神様の深い愛と憐みの故でした。

高校1年生の時に信仰告白をし、神様と共に歩く人生を進みはじめました。

ただそれは、ささくれみたいな痛みも一緒についてくる歩みでした。

私が20歳の頃、兄が鬱病になります。たった1人の兄妹で、同じ痛みを持っている兄でした。

兄は、どんどん人間を辞めていきました。

私はそんな兄を受け入れることができず、互いに傷つけ合いました。何よりも苦しかったのが、毎晩、兄の死を願い眠る自分でした。

自分の本当の醜さ、汚さ、弱さを見せられました。見たくもない自分のドロドロした部分から目を逸らすために、私は祈ることをやめ、神様を遠くに押しやりました。

父のことも、兄のことも、神様を知っているから、イエス・キリストの十字架を知っているから苦しいのだと思っていました。

自分の中から神様の存在を消したくて必死でした。

けれど神様は、そんな私を諦めず、見捨てませんでした。

神様は、私をイタリアに呼んだのです。

当時の私は、イタリアに留学する気力など自分のどこにもありませんでした。

自分の気持ちとは関係なく、遠ざけたはずの神様が、私を動かしていることだけは、はっきりとわかっていました。

ミラノ賛美教会の門を潜ったのは、留学生活で親切な日本人に出会いたかったからです。

動機は、神様に礼拝を捧げるためではありませんでした。

でも、門を潜った時から、知らない土地の初めて行く教会だったのに、懐かしい故郷に帰ってきたような感覚でした。

そして、母国語でない韓国語の賛美が始まった途端に涙が溢れました。

「おかえり」主の大きな愛に包まれ、抱きしめられ、神様にそう言われた瞬間でした。

私は、その時から祈りを取り戻しました。祈りを取り戻してから、劇的にではありませんが、たぶんそれは神様の速度で兄は兄を取り戻しています。

先日、母から一枚の兄の写真が送られてきました。

そこに写っていたのは、兄のなんでもない普通の笑顔でした。

私は、もう兄のあんな笑顔を見ることはないだろうと覚悟していたので、本当に嬉しく、神様に感謝しました。そして神様が、素直に嬉しく思える自分にしてくださったことに感謝しました。

私は傷のある自分が怖かったのです。

イエス・キリストの愛の中で生きる者は、傷などないと思っていたのです。

でもそれは違いました。私の傷は、神様からの大きな恵みだったのです。

主はその傷を通して、赦されることと、許すことを教えてくれました。

主はその傷を通して、愛されることと、愛することを教えてくれました。

主はその傷を通して、失うことを恐れていた私に、絶対に失うことのないものをくれました。

主はその傷を通して、私と主を固く結び合わせ、私と私の大切な家族を回復させてくださいました。

痛みが消えたかというと、嘘になります。

しかし今は痛みを覚える時、主イエス・キリストが、従順に従われた十字架への道で受けた傷のはかりしれない赦しと、その傷跡を残し復活された深い愛を思うのです。

この証を準備していく中で「主は良いお方」という賛美が、ずっと頭の中で流れていました。

「主は良いお方」を賛美しつつ、詩篇103篇を心に置き、一歩ずつ主が私を強くしてくださっているのを感じます。

これからは、この傷を隠すのではなく、この傷があったから知ることができた、主イエスの愛を表していく道を歩んでいきたいです。

主の与えてくださった、この素晴らしい傷と共に歩む恵みに感謝します。

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